おトイレ

 

「ここもダメだ。どうなっているんだよ。まったく」

三階の男子トイレの個室を確認して、俺は思わず苛立ちから唇をかみ締めた。一階、二階と上がってきた俺はかなりイラついていた。

グルグルと鳴るお腹を押さえながら、俺は上の階へと連絡しているエスカレーターに飛び乗った。俺のお腹は限界へと近づいていた。

その日は、大学の午後からの授業が休講で、時間のできた俺は、家に帰ってもすることがないので、時間つぶしに街をぶらぶらとさ迷っていた。平日だというのに街はにぎやかで、人通りも多かった。そんな中、小さな一口サイズの紙コップを載せたトレイを持ったちょっと可愛い女の子が、通りいく人たちに声をかけていた。それは何か新しいドリンクのキャンペーンだった。俺は冷やかし半分にそれをもらい一息に飲み干した。結構口当たりがよく、もっとせがんだ。人一杯だけというのも聞かずに、数杯飲み干した。そんなに飲んだら大変な事になるという女の子の声を背に聞きながら、身体は人一倍丈夫だよと言い返して、その場を離れた。それが、新しい便秘薬だったという事を、俺はあとで知った。

「何にも起こらないじゃないか」

俺は、そう口に出しながら歩いていると、突然お腹が鳴り出した。そして、激しい便通が俺を襲ってきた。俺は、近くのデパートに飛び込んだ。そして、一階の売り場を便通で痛むお腹を押さえながらトイレを探した。やっと見つけたトイレに駆け込んで、個室に入ろうとすると、二つある個室は、全部使用中だった。ノックをしてみたが、出てきそうな気はなかった。俺の便通は激しさをまして行き、俺は二階のトイレへと向かった。だが、そこの個室も使用中だった。

そして、三階もダメだった。俺は次の階へと希望をつないだ。だが、こういう時は、妙な連鎖があるもので四階も使用中だった。この調子では、全館男子トイレの個室は使用中なのかもしれない。そんな気がしてきた。

「それならいっその事、女子トイレに・・・は入れるはずもないか」

痛みの増してくるお腹を押さえて、俺はトイレの入り口で動けなくなってしまった。さらに悪い事は重なるもので、尿意も襲ってきた。小の方の便器は空いているのだが、もし、そこでしようものなら、気が緩み悲惨な結果になってしまうのは明らかだった。

俺は二重の苦痛に耐えなければならなくなってしまった。

「も、もうこうなったら女子トイレでも・・・だめだ、変態と思われる。それでもいいから・・・」

俺の我慢は限界に来ていて、自分でも何を言っているのかわからなくなってきていた。

「お兄ちゃんどうしたの?」

俺は声のしたほうを見た。そこには、女子トイレから出てきたばかりなのだろう。ハンカチで濡れた手を拭いている10歳ぐらいのおかっぱ頭の女の子が心配そうに、俺を見ていた。

便通で、腰を曲げ、脂汗をたらしている俺を見たら異常に感じるだろう。

「あ、う、え!」

便通と尿意が身体を走る度に,俺は身体を捩じらせているのだから。

「おトイレに行きたいの?」

心配そうに俺の顔を覗き込む女の子に俺は答えた。

「ああ、行きたいんだが、使用中で使えないんだ」

「だったらこっちを使ったら?空いてるよ」

女の子は女子トイレのほうを指差した。

「でも、お兄ちゃんは男だから入れないだろう?男の人が入ってきたら、君もいやだろう」

「そうね。男の人が入ってきたらいやだよね・・・そうだ、わたしがお兄ちゃんのその悩みを解決してあげる。遅くなりましたが、改めて、わたしはこういう者です」

その女の子は、肩から下げたポシェットから名刺を取り出すと両手で持って、俺の目の前に差し出した。

「ココロとカラダの悩み、お受け致します?真城 華代」

俺は絶えず襲い来る便通と尿意を一時忘れて、その名刺に見入った。

「お兄ちゃん、名刺を・・・て、もてないね。急がないといけないから、いくよ!」

女の子は差し出していた名刺を肩から提げたポシェットになおすと、両手を組んでなにやら唱え出した。

「トリトリツケツケみらくるぱわぁ〜〜〜」

組んでいた両手を俺のほうに向けて広げながら差し出すと、開かれた両手の間から光の魂が飛び出して俺の身体を包んだ。

「うわぁ〜〜」

身体中にムズムズとした感触がはしり、骨が音を立て始めた。そして、頭がむず痒くなり胸のあたりが窮屈になり、お腹が締め付けられ、お尻が引き伸ばされる感触がした。そして、最悪な事に、ガマンしていた尿意が辛抱できなくなり、お腹が引き締められたために、肛門に今まで以上に圧力がかかってきた。

「あ、あ、も、もうだめぇぇぇぇぇっ」

いつの間にか甲高くなった声で、俺は叫んで、その場に恥辱をさらした。

「おわった・・・」

俺は、自分の身体からほとばしった物の上に力なくしゃがみこんだ。

 

 

今回は失敗しちゃいました。でも、あのお兄ちゃん、オシッコもしたかったんだね。男の人より、女の人のほうが、おトイレが近いんだ。ふ〜ん。

あのお兄ちゃん・・いえ、今はお姉ちゃんか。今度は我慢せずにおトイレに行ってね。

それでは、今度はあなたの悩みを解決してあげるね。

それでは、バイバイ。